上智福岡中学高等学校

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2020年9月14日

狭い門から入りなさい。

今日は思索の放送で話された内容です。

マタイ福音書 7章13節

狭い門から入りなさい。滅びに通じる門は広く、その道も広々として、そこから入る者が多い。しかし、命に通じる門はなんと狭く、その道も細いことか。それを見いだす者は少ない。

前回といっても7月だったのですが、思索の放送でこの有名な聖書の一節を読み、努力と才能はどちらが評価されるべきかというお話をしました。私たちは努力の大切さを知っていながらも、ついつい才能という響きに惹きつけられてしまい、努力をないがしろにする危険性があるという話でした。今回ももう少し努力と才能について、お話したいと思います。

アメリカ・スタンフォード大学の心理学教授のキャロル・ドウェックは、小学校高学年の数百人を対象に興味深い実験をしています。

まず彼らは子どもたちにやさしい図形パズル問題を与えます。そして、テスト終了後、子どもたちに点数を伝えほめました。成績内容にかかわらず一人一人の子どもをほめたのです。半分の子どもには「あなたは頭がいいんだね」「天才かもしれないよ」といった具合に「頭の良さ」をほめます。残りの半分の子どもには「一生懸命やったね」「粘り強く取り組んだね」など努力をほめます。もちろんグループ分けをした時点では、両グループの成績はまったく同じです。

そして、先ほどのこどもたちに難易度の異なる二種類のテストを与え、どちらでも好きな方をやりなさいと伝えます。テストの1つは、最初のパズルより難しいけれど、やればとても勉強になるパズル、もう1つのテストは最初のパズル同様、楽にできるパズルです。頭がいいとほめられた子どものほとんどが楽にできるほうを選びました。その一方で、努力をほめられた子どもの9割近くが難しいパズルにチャレンジしました。
その後、子どもたちに極めて難しいパズルを与え、その様子を観察します。難しい問題を目の前にしたとき、頭のよさをほめられた子どもたちはあきらめが比較的早かったのですが、努力をほめられた子どもたちは、あきらめずこの難問に粘り強く取り組んだのです。それどころか、むしろ、難しい問題の方が面白いと答える子供が多かったと言います。

次の実験の結果はさらに示唆的です。難問にチャレンジした後で、子どもたちに他の子どもたちの答案用紙を見せる機会を与えました。この時、自分より成績が良かった人の答案用紙を見るか、自分より悪かった人の答案用紙を見るかを選ばせます。みなさんはどうなったと思いますか。努力をほめられた子どもたちは自分より良い成績の答案を見ようとする傾向が強く、逆に頭の良さをほめられた子どもたちは、ほぼ全員が、自分よりテストの出来が悪かった子どもの答案を見ようとしました。頭の良さをほめられた子どもたちは、自分より出来の悪い答案を見ることで、自尊心を守ろうとするのです。
ドウェックは最後に、最初の図形パズルと同じくらいの易しさのテストを子どもたちに実施しました。その結果、努力をほめられた子どもたちは、図形パズル問題の成績が30%程度伸びたのに対して、頭の良さをほめられたグループは20%程度成績の低下が起こりました。努力をほめられた子どもたちは、自分の間違いを積極的に見つめ間違いから学んでいくので成績が伸びていく、その一方で頭の良さをほめられた子は、自分の間違いを出来るだけ見ないようにして自尊心を維持しようとするので、間違いから学べない、パズルの解き方も向上しないと考えられるのです。あまりに出来過ぎた実験結果にあぜんとしますが、事実、そのような結果となっているのです。
生まれながらの才能や賢さ、頭のよさに価値を置きすぎると、間違いを回避するようになる。そして間違いを回避するので、知らず知らずのうちに自分の成長を妨げてしまう。また、間違いを恐れるあまり、あらかじめ間違いを回避するために手段を選ばなかったり、間違えたときにそれを隠したりごまかしたりすることもあるでしょう。あるいは人のできなさや間違いをけなして、優越感を味わったり自分のよりどころにするようになるのかもしれません。それは先ほど朗読した聖書の「滅びに通じる門」とも言えるような気がします。

人は生きていく上で間違わないことは決してないわけですから、その間違いから学ぶこと、その際にはもちろん努力が必要になるわけですが、その努力ができるようになることを身につけることは、どんな才能や賢さにも勝る強みになるのではないかと思います。そういう人は間違いをすればするほど成長することになるわけですから….

と、自分自身にも言い聞かせながら、今日の思索の放送はここで終わりたいと思います。

努力と才能については、また別の機会にお話することもあるかもしれません。ご静聴ありがとうございました。