上智福岡中学高等学校

Weekly "Sophia Fukuoka" Information今週の上智福岡

  1. TOP
  2. 今週の上智福岡
  3. 校長講話
  4. 74期卒業式 校長訓辞

2023年3月1日

74期卒業式 校長訓辞

74期卒業式訓辞

「光であるあなたよ、あるがままに輝け」

74期の皆さん、卒業おめでとうございます。また、保護者の皆様、これまでの私たちへの温かいご支援とご協力に深く感謝するとともに、お子様の立派なご成長と、この度のご卒業を心よりお喜び申し上げます。

 さて、74期の皆さんには中3の時にE語を教え、今思えばコロナの直前にギリギリセーフでオーストラリア語学研修にも行け、皆さんが親元という安全地帯から飛び出し、言葉の壁、文化の壁、孤独の壁、人見知りの壁を自ら乗り越えて大きく成長するシーンに立ち会わせていただきました。またこの一年はStudies For Othersの授業で、この学校を卒業したあとに、神様に頂いたタラントンを活かし、自分がどのようにこの世界に貢献していくのか、それに必要な力をどこで学ぶのかという、これからの自分探しの作業に同伴し、みんなとともにその志、ミッションを全員分聞かせていただきました。多くの人が大きな夢、具体的な目標を語ってくれました。皆さんのうち、1人でも、18歳の自分が語った夢を10年後、20年後に実現できていたとしたら、それは74期そして私たちみんなの誇りとなるでしょう。

 しかし、何を語ったかよりも、卒業を前に真摯に自分を見つめ、世界が今抱えている課題に向き合い、自分に何ができるのかを考え、それをみんなで共有できたことにこそ大きな意味がありました。この学校を巣立ち4月から皆さんはそれぞれの道を歩み始めることになりますが、別々になっても「同じ思いで頑張る131人の仲間がいる」と思えるだけで、それは皆さんに大きな力を与えてくれることでしょう。

 ところで、これから皆さんはどのような時代を私たちと共に歩むことになるのでしょう?皆さんがStudies For Othersの中で探究したとおり、温暖化一つとっても地球環境の持続可能性が今問われております。また、皆さんが在学していたこの6年の間に身の回りで起きたことを振り返ってみても、これからは自分の命と生存について真剣に考えずにはいられない時代となるように私には思えます。

 まず何よりも、私たちは3年前より、新型コロナウイルスというパンデミックの脅威に晒され、死の恐怖をいつになく身近に感じることとなりました。あるいは、先日2月6日には一瞬の揺れで、トルコシリアの方々5万人以上の命が奪われ、その何百倍もの人がそれまでの生活を失い、いま避難生活を送っておられます。地震といえば身近なところでも、皆さんがこの学校に入る前の年には熊本地震がおきましたし、水害で言えば中1のときには九州北部豪雨が、中2のときには岡山が大きな被害を受けた西日本豪雨、高1のときには令和2年7月豪雨で球磨川流域が大きな被害を受けました。もはや、明日は我が身と感じないわけにはいかず、生存のための備えを否応なしに意識させられます。

 このような自然災害だけでなく、戦争の脅威も高まりつつあります。1年前に世界中の予想を大きく裏切り、核大国ロシアはウクライナ侵攻を始め、多数のウクライナ市民の犠牲者と、双方の軍人の死傷者を出しながら長期化し、今後更に核兵器使用や、第3次世界大戦へと発展しかねない様相を呈しています。日本も防衛費の大幅増額に至っています。世界は、にわかにきな臭くなってきているのです。このように命について、生存について真剣に考えずにはいられない時代を私たちはこれから歩んでいかなければなりません。

 さらに、このような状況だからこそ、私たちが安心安全に生きていくためにはこれまで以上に互いの助け合いと協力が求められる時代となるでしょう。例えば、国際社会は今「1.5度の約束」を果たそうとしています。2021年に開かれたCOP26において世界の平均気温上昇を産業革命前と比べて1.5度に抑える決意が示されたからです。今私たちは、1.5度を超えてしまうと温暖化が連鎖的におき、気温上昇が抑えられなくなる危機的状況に置かれており、CO2排出量を2030年までにほぼ半減、2050年までに実質ゼロにすると言う非常に厳しい目標の達成を目指しているところです。そのため、ヨーロッパ各国は石炭火力発電の稼働停止や廃止を決めました。

 ところがウクライナ侵攻により、ヨーロッパ各国はロシアの天然ガス依存から脱するためにその石炭火力発電の再開や廃止延期を余儀なくされています。影響は温暖化だけにとどまりません。ロシア、ウクライナからの穀物や肥料の供給不足により価格が高騰し、改善しかけていたアフリカなどの途上国の貧困や飢餓が再び拡大しています。このように、あらゆる課題の解決には、すべての国の協力が不可欠なのです。さらには、あらゆる課題には、かならずそこに苦しむ人々や、環境への被害があります。これを助けるためにも、国や民間など様々なレベルでの助け合いが必要です。

 このような時代に皆さんが船出するとなると、不安が胸をよぎり、どうしたらいいのか戸惑うことでしょう。そんなときに思い出して欲しいのは、6年前の入学式の日に聞いた「あなたがたは地の塩である」(マタイ5.13)、そして「あなたがたは世の光である」(マタイ5.14)という聖書の言葉です。これはイエス様からの私たち一人ひとりへの励ましの言葉です。このあとに続く「あなたの光を人々の前で輝かせなさい」(マタイ5.16)と言う言葉は、実はもともと書かれたギリシャ語では「あなたが光を輝かせよ」ではなく、「光であるあなたよ、あるがままに輝け」と言うニュアンスを持っています。もう一度言います。「光であるあなたよ、あるがままに輝け」と言っているのです。

 ではそのあなたの光とは何でしょうか。それはまさに皆さん一人ひとりが頂いているタラントン、そして皆さんがこの学校で大事に育ててきたFor Others, With Othersの心ではないでしょうか。イエス様はそのタラントンとFor Others, With Othersの心を持つあなたに向かい、「あるがままに輝けばいいんだよ」とおっしゃっているのです。

 さらに神様は、あなたがあるがままに輝けるように、大変貴重な体験を私たちに与えられたのを忘れてはなりません。それはこの3年間のコロナの体験です。この体験のお陰で、私たちの中にあるFor Others, With Othersの心はあるがままに輝けるはずです。なぜなら、日常を奪われる辛さを経験した人ほど、同じ思いをしている人の辛さが分かるからです。

 3年前を思い起こしてみましょう。私たちは、得体の知れぬ新型コロナウイルスの脅威に晒され、当時は死の不安をいつになく身近に感じました。学校は長期にわたり閉鎖となり、体育祭、文化祭、部活動、宿泊研修など当たり前と思っていたことの多くが命の危険の前に制限を余儀なくされました。否応なしに私たち一人ひとりが楽しみにしていたことができなくなり、その悔しさ、辛さ、やるせなさを味わいました。これは私たちの多くがこれまでに体験したことがなかった、いわば当たり前の日常を奪われる体験です。

 この当たり前の日常を奪われる体験をした私たちは今、お陰で、様々なことで日常を奪われた人の痛みを自ずと我がことのように感じることができます。そしてその苦しみを知るからこそ、助けなければと言う思いに駆られます。これが、光である私たちが輝き出す瞬間です。是非この時に、その輝き始めた光を自分で消さないでください。あなたのタラントンを用いて、進んで困っている人のために働くことが、光であるあなたがあるがままに輝くこととなるからです。

 初めに、これから私たちが生きる時代は、命と生存を真剣に考えずにいられない時代、互いの助け合いと協力が求められる時代になると話しました。この時代に是非、光であるあなたを、あるがままに輝かせてください。「地の塩、世の光」の言葉を自分の生き方の柱に据え、しっかりと前を見据えてあなたらしく生きてください。皆さん一人ひとりが、これからは私たちとともに、自分のように人を大切にする人生を歩んでくれる事を期待します。この期待を胸に、卒業に当たっての皆さんへのお話しを終わらせていただきます。